ハーレーの3大魅力と言えば「走り・カスタム・メンテナンス」の3つ。特にハーレーは他メーカーのバイクに比べ、エンジン周りのメンテナンスがしやすい事で知られています。
そんなハーレーでよく発生するトラブルと言えば、エンジンからのオイル漏れ・滲みです。
特にエンジン上部のロッカーカバー周りからのオイル滲みは、大事に乗っていても普通に起こり得る故障の大定番として知られています。
滲み程度であれば当たり前のように発生するので、故障ではなく仕様として捉えているオーナーも少なくありません。
そこで今回は、私が乗るXL883Nで発生したロッカーカバーからのオイル漏れを修理した際に行った手法をシェア。これからガスケット交換を自分で行いたい方必見です。
直す前にまずは知る!スポーツスターのエボリューションエンジンとは
スポーツスターは、ハーレーならではのドコドコ感のあるエンジン鼓動を存分に味わえるとして人気を博するシリーズである。883㏄と1200㏄の排気量の異なる2つのエンジンが用意されている。
現行モデルに採用されているエボリューションエンジンは、1980年代中盤にリリースされた伝統あるエンジンである。
ミルウォーキーエイトやツインカム等の所謂ビッグツイン系のエンジンと比較すると、スポーツスターのエボリューションは排気量こそ小さいが、車体への振動の伝わりを軽減する装置であるエンジンバランサーが付いていない為、振動感は前者より強いと言われている。
エボリューションエンジンは、誕生から30年以上と基本設計は古いものの、頑丈で高寿命なのが特長である。きっちりメンテナンスを行えば20万キロも夢ではない。
オイル漏れなどの軽微な故障に目を瞑れば、非常に優秀なエンジンと言えよう。
スポーツスターエンジンのウィークポイントについて
10万キロ以上の走行に耐えうる耐久性と、致命的な故障が起きにくい精密さを持ち合わせたスポーツスターのエボリューションエンジンだが、オイル滲みや漏れは高確率で起こる軽微な故障の代表格である。
特に滲み・漏れが多く発生する箇所として挙げられるのが、シリンダーヘッドの上に付いている「ロッカーボックス」や、そのさらに上の「ロッカーカバー」周辺である。
ロッカーカバーは、OHVエンジン特有のパーツであるプッシュロッドから動力が伝えられるロッカーアームを包んでいる部品。エンジンの最上部にあり振動の影響を受けやすい為、ボルトのゆるみが頻発する箇所でもある。
スポーツスターの場合、このロッカーカバーの下には、ロッカーボックス又はロワーハウジングと呼ばれる同じようなアルミ製の部品が付いていて、ここからのオイル漏れ報告も多い。
ロッカーカバーのガスケットについて
スポーツスターのロッカーカバーとロッカーボックスの接合部には、ゴム系の樹脂でできたガスケットが使われているのだが、このガスケットはこれまでに何度も仕様変更(改良対策)がされている。
高年式のスポーツスターであれば、対策済みのガスケットが組み込まれている可能性が高いが、7,8年前の車体の場合は、改良前のガスケットが付いている可能性が高い。
ガスケットの新旧の見分け方は、古いものはオレンジ色となっていて、対策後のものは黒となっている。
私自身、新旧両方のガスケットを触ってみたが、硬さが全く違っていたのには驚いた。
オレンジの対策前のものはゴムらしく柔軟性があり柔らかかった。対策後のものはゴム感が感じられないほど硬い触感であった。
スポーツスターのロッカーカバーガスケット交換の前提条件
まず今回の解説内容は、私が乗るXL883Nをはじめ、XL1200XやXL1200NSにも共通するロッカーカバーのガスケット交換方法である。
車両が2009年以降のインジェクションモデルであること、エンジン最上部のロッカーカバーのガスケット交換であること、この2点を前提としている。
ロッカーボックスの金属ガスケットを同時に交換する場合は、ジャッキでタイヤを浮かせて吸排気バルブの上死点を出すことや、シリンダーヘッド側に付着するガスケットを砥石で磨いて除去し平らな面を出す、などといった少し難易度の高い作業が必要となる。
作業工程が大きく異なるので予めご了承頂きたい。
ちなみに、ディーラーをはじめとするバイク屋に今回の作業を依頼すると、平均で4万円程かかる。自分で行えば部品代のみなので、かなりの節約になる。
燃料タンクを外さずにロッカーカバーガスケットの交換は出来るのか?
結論から言うと、私が所有するアイアンに関しては、タンクを取らずとも何ら問題なくロッカーカバーの取り外しは出来た。
構造の同じXL1200NSはもちろん、XL1200Xやロードスターも同様に作業できるはずだ。
ガスケット交換を解説しているYoutubeやブログの多くで、作業には燃料タンクを外す必要があると述べられているが、アイアンやフォーティエイト等はタンクが小さくエンジン上部の隙間が十分にあるので、タンクを外さなくてもロッカーカバーのガスケット交換が可能である。
しかし、現行モデルの1200カスタムやXL1200T(スーパーロー)は、タンクが下に大きく張り出していて干渉するので取り外しが必要だ。
今回は初心者向けの記事なので、より作業を簡素化する為に、燃料タンクを外さない方法で解説する。
ちなみに今回の作業でシートを外す必要もない。
タンクの傷つきを予防する為に、作業前にタンクにカバーをかけておくことをおすすめする。
作業に必要な工具
・ニッパー
・竹串
・ヘキサゴンレンチ(3/16) ※下記のビットソケットがあれば必要なし
・ビットソケット(3/16)
・トルクレンチ
必要な補修パーツ
・ロッカーカバーガスケット(大) 純正品番: 17362-07C
・同上(小) 純正品番: 17695-07C
・ロッカーカバーシーリングワッシャー 純正品番: 6589A
※最後の文字がアルファベットのものが対策品
▼ジェームズガスケットからリリースされているリプレイスメント品でも可
・JGI-17362-07
・JGI-17695-07
・JGI-6589
ロッカーカバーガスケットの交換方法を解説
まず初めに、ロッカーカバーガスケットを交換する際は、現時点片側だけから漏れている場合でも、前後両方交換することをおすすめする。
何故なら、例えば、後ろのロッカーカバーのみからオイル漏れが発生したとしてそこを直したとする。
そうすると、今まで後ろから逃げていた圧が今度は前側に集中してかかるようになるので、すぐに前側のロッカーカバーからもオイル漏れが起こることが多いのだ。
また作業上の注意点だが、フロント側とリア側では作業内容が若干異なる。
ロッカーカバーを外す際、リア側は中央から出ている温度計の配線を外すだけですんなりとカバーが外れるが、フロント側はイグニッションコイルやエアクリーナーを外さなくてはならない。
それでは以下より作業手順を解説する。
①バッテリー端子を外す
作業中に誤作動でセルが回らないようにする為に、バッテリーの端子を外す。
車体左側のサイドカバーを開き、赤いカバーが付いていない方のマイナス端子を外す。
もう一つの方法として、バッテリー側面に付いている黒いヒューズケース内にある緑のヒューズを取る方法もある。
②【リア側】シリンダー中央から出ている温度計の配線を外す
後ろ側のロッカーカバーを取り外す際に必要な作業。前側のロッカーカバーのみを開ける場合は外す必要はない。
配線の中頃を留めているケーブルストラップをニッパーで切った後、オイルタンクカバーの右下付近にあるコードのソケットを外す。ツメを押して引っ張るだけで簡単に外すことが可能だ。
②【フロント側】イグニッションコイルとエアクリーナーを外す
フロント側ロッカーカバーを取り外す際は、作業時のレンチの干渉を避ける意味で、タンク下のイグニッションコイルを外しておく必要がある。
イグニッションコイルは六角ボルト2本で留まっていて、ロッカーカバーを留めているのと同じく3/16のレンチを使って外す。プラグコードも邪魔になるので、引き抜いておく。
次に、旧型の楕円形のエアクリーナーの場合、ロッカーカバーを外す時に干渉してしまうのでエアクリを外す必要がある。
現行の丸いものや一部の社外品であれば干渉しないので外す必要はない。
旧型の場合は、エアクリーナーのガスケットを用意しておこう。
③プラグコードを抜く
作業効率を上げる意味も含め、ロッカーカバーの取り外し時に干渉する恐れがあるので、スパークプラグにはまっているプラグコードを外しておく。
ゴム部分を掴んで引き抜くと簡単に外れる。
④ロッカーカバー周りの清掃
取り外し時にゴミがエンジン内に入らないように、ロッカーカバーの上部や側面をウエスでよく拭いておく。この時中央の穴周りも拭いておく。
仕上げにカバー全体にエアーをかけて埃を飛ばしておく。
⑤ロッカーカバーを留めている4本の六角穴付ボルトを外す
ロッカーカバーの上部にある4つのボルトは、3/16の六角レンチで回る。
この時の注意点は、ボルトを緩める際は必ず「均等に緩める」必要がある。ボルトを1本づつ外してしまうと、負荷が集中して最悪カバーを破損させてしまう恐れがあるので注意しよう。
また、1つのボルトに対し2枚のワッシャーが付いている。
上側は普通のワッシャーであるが、下側はゴムが巻かれたシーリングワッシャーとなっている。ゴム部分に破損があれば新しいものと交換が必要だ。
⑥ロッカーカバーの取り外し
この作業が今回の山場。上部4つのボルトを外すとカバー自体はフリーになるものの、カバーをエンジンから外す際に、上部フレーム側の配線カバーと干渉するので少しコツが要る。
リア側は難なく外れるが、フロントシリンダー側には上部にエンジンとフレームの接合部であるラバーマウント部に繋がっているブラケット(16232-04の金具)があるのでクリアランスが極めて少ない。外す際は知恵の輪的に工夫しながら外す必要がある。
フロントの場合、一度グッとカバーを持ち上げてから、エアクリーナーがある車体右側にカバーを移動させると比較的簡単に外せるはずだ。
ロッカーボックスを留めている出っ張った黒いボルトにロッカーカバーが触れないように細心の注意を払って慎重に外そう。
⑦ロッカーボックスの上部にはまっている古いガスケットを取る
縁と中央の2カ所に付いている古いガスケットを取る。
竹串や爪楊枝などの先の尖ったものでガスケットをつつき、上に引っ張るとぬるっと外れる。
この際、マイナスドライバーなどの先端の硬度が高いものを使うとエンジン内部に傷がつくので注意しよう。
ガスケットを取ったら周囲をウエスなどで綺麗に拭いておく。溝に溜まっているオイルは出来る限り除去しておこう。ただしパーツクリーナーは使わないこと。
⑧新品のガスケットを取り付け
溝に合わせて2つのガスケットをはめる。
この際の注意点として、外側からだけのオイル漏れであっても中央の四角いガスケットも必ず変える必要がある。
何故なら、使用済みのものと新しいものではガスケットの高さに差があるからだ。
⑨ロッカーカバーを元の位置に戻し、六角穴付ボルトで締め付け
外した時の逆の手順でロッカーカバーを定位置に配置し、4つのボルトを均等に締め、組み付けていく。
その際のボルトの締め付けトルクは、14Nm~18Nm。トルクレンチを用いて既定のトルクを必ず守るようにしよう。
⑩各所の復元
イグニッションコイルや温度計の配線、プラグコードなどを元通りにする。最後にバッテリーの端子を付ける。
⑪始動確認
走行する前に、エンジンをかけオイル漏れや異音がないかよく確認する。問題なければ完了となる。
以上の手順が、現行スポーツスターのロッカーカバーガスケットの交換方法です!
私のアイアンやフォーティエイト等はフューエルタンクを外さずとも作業ができるので、スムーズに進められれば1時間程度で上記の全行程が完了できると思います。
実際の作業の際は、この記事だけでなく、必ずメンテナンスマニュアルも参考にして正確な作業を行いましょう。
全ての作業は自己責任で。本記事の内容を参考にして不具合が発生しても一切責任は取れませんので、難しいな…と思ったら作業途中でもすぐに手を止め、バイク修理店に連絡することをおすすめします。