長年モーターサイクルに乗っている方なら必ず一度は経験しているであろう軽微なメンテナンスの代表格と言えば「クラッチ調整」である。
日本車と比べてクラッチが硬いとされるハーレー。特にスポーツスター系はクラッチが重いことで知られており、必然的にケーブルの伸びも発生しやすいのだ。
そこで今回は、スポーツスターを長く快適に乗る為に欠かせない整備の一つである、クラッチランプの遊び調整も含めたクラッチ調整のやり方を解説する。
さらに今回は、稀に破損するとの話を聞く部品「クラッチアジャスタースプリング」の交換も併せて行う。
クラッチ調整の必要性
ひとたびバイクに乗ればギアチェンジや停車の度に切る必要があるクラッチ。一度の乗車でクラッチレバーを握る回数は数えきれないだろう。
それだけ何度も強い力がかかるクラッチだけに、それをつかさどるケーブルの伸びをはじめ、レバー等の各部品の微細な変形は必然的に起こり得る。
そのことによりクラッチの切れが悪くなるので、定期的な調整が必ず必要となるのだ。
スポーツスターのクラッチ調整方法は二通り
スポーツスターの場合、クラッチ調整方法は二通りある
一つ目は、クラッチケーブルの中間にあるアジャスターで調整する簡易的な方法
軽度なケーブルの伸びであればこの方法で十分である。
必要な工具はレンチ2本のみで、作業時間も5分程と簡単。最低でも3か月に一度は行っておきたい基本的なメンテである。
二つ目の方法は、クラッチランプの遊びを調整
上記のケーブルアジャスター調整に加え、プライマリーカバーの後部にある円状のダービーカバーを開け、クラッチケーブルが繋がっているクラッチランプ(外側にあるのでアウターランプとも言う)という部品の締め付け具合(遊び)を調節する方法である。
このクラッチランプ周辺の部品も金属なので、長年の使用により極微細な変形が起きる。そのことにより遊びが増えるので調整が必要となる。
こちらは、1年に一度もしくは、少ないとも車検の度に行う必要がある。
低年式車両ならアジャスタースプリングの交換が吉!
5年以上前の車両なら、クラッチ調整のついでにアジャスタースプリングの交換をお勧めする。何故なら、このバネはとても細く、劣化により破損が起きる可能性があるからだ。
クラッチアジャスタースプリングは、ダービーカバーとアウターランプの間に納まっており、クラッチランプにテンションをかける働きをしている。
長年の使用により張力の低下や、最悪破損が起こる場合もあるんだとか。その為、今回はクラッチ調整のついでにこの部品を交換した。
因みに、XL883Nの場合、パーツナンバーは「36715-94」となる。価格はディーラーで購入したので900円程であった。
それでは、スポーツスター・アイアンでクラッチ調整方法を解説
尚、本作業を行う際は事前に、ジャッキで車体を垂直にしておく必要がある。プライマリーオイルの漏れを防ぐ為だ。
①クラッチケーブルのアジャスターを緩める
まずは、車体左側のフロントシリンダー付近、フレームに金具で固定されているクラッチケーブルの中頃にある蛇腹のゴム製カバー(ラバーブーツ)を上にスライドさせ、アジャスターを出しておく。
ここがコツ!
次に、後の調整をラクにする為に、現時点のアジャスターの調整具合をノギス等で測り記録しておく。テープ等でナット位置の目印をつけておく方法もありだ。
アジャスターナットを1/2インチのスパナで抑え、ロックナットを9/16インチのスパナで回し、ケーブルを最大値まで緩めておく。
※年式によるクラッチケーブルの違いにより、ナットサイズが異なる場合がある
②左のフットペグマウントを外す
次にダービーカバーを開けるのだが、XL883Nの場合、ステップと干渉してダービーカバーが外せない。その為、左側のフットペグをステーごと外す必要がある。
因みに、XL1200Xの場合は、フォワードコントロールの為、ステップを外す必要はない。
このステップを外すのは意外にも大変であった。
まずこのステップを外す為に5/16インチのヘキサゴンソケットを買ったのだが、なんとこれがボルトを通している穴の周りに干渉して使えなかったのだ。
仕方なく手持ちの六角棒レンチでトライしたのだが、ステップを固定しているボルトにはねじの緩み止め剤が使われている為、硬くて全く回せない。
そこで思いついたのが、5/16の六角棒レンチに同サイズのソケットをはめて、さらにそこにエクステンションバーをジョイントして回す方法だ。
この方法でやっとフットペグマウントを外すことが出来た。
③ダービーカバーを外す
ダービーカバーを留めている6本のボルトを、T27のトルクスで外していく。
外す際は、全てのボルトを1本ずつ均等に緩めること。ラチェットレンチを使い45度ずつ緩めていく。
④ダービーカバーが外れたら、周囲をよく清掃する
無事にダービーカバーを外したら、ガスケットを取り、ウエスで周囲をよく拭いておく。
この際、XL883Nのようにダービーカバーがポリッシュ仕上げであれば、表面をメタルコンパウンドで磨いておくのも良いだろう。
⑤アジャスタースプリングを交換
ダービーカバーを開けた先の中央に付いているアジャスタースプリングを取る。
このスプリングは、ロックプレートという六角形の部品とニコイチになっている。はめてあるだけなので、軽く回せば簡単に分解できる。
ロックプレートをパーツクリーナで清掃し、新品のアジャスタースプリングに変えておく。
⑥調整ねじを回しクラッチランプの遊びを調整
ロックプレートを外すと現れる調整ねじを、マイナスドライバーを使い締めていく。このねじは通常のねじとは異なり、左に回すと締まり、右に回すと緩む構造となっている。
この時のコツは、指3本でマイナスドライバーをつまむようにして持ち、軽い力でねじを左に回すことだ。こうすることで余分な力をかけずに回せる。
回らなくなったところから、ねじを1/4または1/2回転「右」に回し緩める。この緩めた分は、最低限必要となるクラッチランプの遊びである。
因みにクラッチランプは、手前のアウターランプと奥のインナーランプの2枚のプレートと、その間に挟まる3つの鉄球で構成されている。クラッチワイヤーでアウターランプを引っ張ることでスライドする仕組みだ。
次に、調整ねじを左に回し、上記の「カタつき」がなくなるギリギリのところを探す。そしてそこから1/4回転緩める。最後にもう一度アウターランプを触ってほんの少しだけカタついていれば調整完了だ。
万が一調整ねじを締めすぎると、クラッチを繋いだ状態でも若干クラッチが切れている状態となり、急加速時や高速走行時等のクラッチ板に負荷がかかる際に「クラッチ滑り」が起きる原因となるので注意が必要だ。
⑦ケーブルを張る
初めに最大まで緩めたクラッチケーブルアジャスターを元の位置に戻す。
一旦、①でノギス等で測り記録しておいた調整量に戻す。
⑥でアウターランプのねじを調節したので、ケーブルアジャスターを同じ位置にしただけでは遊び量は最適にはならないが、ある程度の目安にはなるはずだ。
⑧クラッチケーブルの遊び量を調整
アジャスターを適切に調整し、クラッチレバーとケーブルの接合部に定規を当て、2ミリ程の遊びがあることを確認する。
⑨再びクラッチランプの調整ねじを確認
調整ねじを軽く左右に回し微調整した後、⑥で行った内容をここでもう一度行う。
⑩クラッチを握り、遊び量を再確認
調整最後の確認として、クラッチを握り遊びを確認する。
問題が無ければ、ケーブルアジャスターのロックナットを締める。
調整作業自体はこれで完了となる。後は各部を元に戻すだけだ。
⑪ダービーカバーの取り付け
⑤の項目で用意しておいたアジャスタースプリングを、調整ねじのある六角形の溝にセットする。この際、調整ねじを回さないとロックプレートが角度的にはまらない場合があるので、その際は少し回してもOKだ。
新品のダービーカバーガスケット(25463-94)を所定の位置にはめておく。はめても落ちてきてしまう場合は、接地面に薄くグリスを塗ると張り付く。
ダービーカバーをプライマリカバーのねじ穴に合わせ、手で押さえておく。この時、ガスケットがズレないように慎重に作業することがコツだ。
ねじ穴を合わせたら、6本のトルクスボルトを指で一本ずつ回し、抵抗を感じるところまで締めておく。
トルクレンチを使いボルトを均等に締める。締め付けトルクは「10Nm」前後だ。
⑫ステップの取り付け
②で外したフットペグマウントを元に戻す。その際、留めているボルトに緩み止めを塗ることを忘れずに。
おすすめのロックタイトは、中強度の243。このペグマウント以外にも様々な箇所に使えます。
LOCTITE 243
⑬最後にエンジンをかけて確認
最終的な確認として、エンジンをかけギアを1速に入れてクラッチミートのタイミングを確認し、問題がなければ完了となる。
自ら行うスポーツスターのクラッチ調整方法を解説しました!
クラッチ調整はバイクに乗っていれば必須となる整備です。
上記の内容をショップに依頼すると5千円以上かかる場合もあるそう。
ハーレーを長く大切に乗る為にも、クラッチ調整は自分で行うことをおすすめします。