鉄馬とも称される珠玉の二輪車を製造する米国メーカー「ハーレーダビッドソン」。モーターサイクルの源流を感じさせるそのバイクは、独特のエンジン鼓動と威風堂々とした姿が魅力である。
そんなハーレーは日本では大型バイクの代名詞的存在として多くのファンを持つ。国内では減少の一途を辿るバイク人口ではあるが、私も乗っているスポーツスターの売り上げは比較的好調である。
今回は、そんなハーレーのマフラーカスタムに関して、二輪歴20年のなお兄が思いの丈を語る。
ハーレーのマフラー交換を検討中の方は、この記事で交換によるメリット・デメリットを知って、適切な判断の糧にして頂ければと思う。
まず初めに。私が思うハーレーのカスタム論
よくある市販のボルトオンパーツで固めたライトカスタムをするくらいなら、ハーレーはノーマルのままの方が十中八九カッコイイ!
以前の記事「アイアンのフロントフォークをブラックアウトする」でも書きましたが、私は現代のハーレーはノーマルでも十二分にクールだと思っています。
ハーレー社が各モデルを世に送り出すまでには、同社の卓抜したバイクデザイナーらが長時間かけてデザイン開発しているわけですから当然ですね。
ドレスアップ系のボルトオンパーツでカッコよくなるのであれば、端からメーカーがそうしているでしょう。日本メーカーと違い、それくらいハーレーは見た目に重きを置いています。
私がおすすめするハーレーカスタム方法
ハーレーをカスタムするなら、ドレスアップパーツやボルトオンパーツで少しずつ変えてくよりも、カスタムの専門家であるビルダーに依頼してあなただけの理想の車両を制作することを強くおすすめする。
カスタムを行う場合は、ハンドルはこれマフラーはこれ、といったようにパーツごとに変更するのではなく、まずは大枠となるテーマ(系統)を決め、ビルダーに相談しながらバイクの姿を再構築する作業が不可欠である。
中には、ボバーにするのかディガーにするのか等、デザインの方向性を決めずにカスタムを開始する人がいるようだが、これではプロでもかっこいいバイクは作れない。
その様にして理想のハーレーを一から作り上げようとすると、カスタム費用がかなり掛かるのでは…と思うかもしれませんが、売却する時のリセールバリューを考慮すると意外や意外それ程高くはありません。
本当にカッコよく仕上がったカスタムバイクなら相応の値段で売れる場合がありますが、逆に中途半端な素人カスタムだと、お金をかけたのにドノーマル車両より買取価格が低くなる場合も往々にあります。
すなわち売却価格を考慮すればビルダー仕上げのカスタムの方が金額的にお得な場合もあるのです。
ただし奇抜な色のオールペンをすると買い手が見つかりにくく、売値を高く設定できない傾向にあります。リセールバリューを考慮してカスタムするなら、今も昔もブラックが一番高値が付きますね。
本当に価値のあるものにお金を掛ければリターンも期待できる、という投資的感覚もハーレーカスタムには必要なのかもしれません。
ハーレーの魅力の一つである音について
ハーレーの多くのモデルに採用されているOHVエンジンは、プッシュロッドという長い金属パーツがロッカーアームに動力を伝える昔ながらの構造をとっており、そのメカニカルノイズも魅力とされている。
またアイドリング時は1000回転、走行中であっても3000回転程度と、エンジンが自動車並みに低回転で回るのも特徴。
そのことにより一般的なバイクに多い高回転型エンジンの「ウィーン」という音とは全く異なるハーレー独特の「ドッドッドッドッ」という低い排気サウンドが楽しめることでも知られている。
私自身、マフラーの排気音は元より、OHVエンジンから聞こえてくるプッシュロッドの音や、クランクケース周辺から聞こえる駆動音も好みである。
現行ハーレーの排気音に関して
2015年以前と比べると明らかに排気音が大きくなった現行のハーレー。
その理由は、世界標準の排ガス規制規格「EURO4」が2017年モデル以降に適応されたことにより、排気音の規制が若干緩和されたからである。
私自身、このEURO4規格に適合したミルウォーキーエイトやエボリューションのエンジンを搭載したバイクに乗ったが、どれもノーマルマフラーでも十分に排気音が楽しめると感じた。
特に加速中の排気音は、ノーマルとは思えないほど歯切れのよいサウンドを聞かせてくれた。
マフラーカスタムによって生じるメリットとデメリット
ここで、マフラー交換で得られるメリットとデメリットを確認しておこう。
メリット
・音が大きくなる
ハーレーの大きな魅力の一つである排気音をより楽しみたい方にとって、音が大きくなることはポジティブ。
・走りが良くなる。馬力が上がる (場合がある)
規制の厳しい日本のマフラーではエンジンのパワーが最大限発揮できない。その為マフラーを変え、燃調やエアクリを変えるなどしてチューニングすれば走りが良くなる可能性がある。
・峠などの急カーブが曲がりやすくなる
製品によってはバンク角が増え、カーブで車体を寝かせてもマフラーが擦らないようになる
・軽量化できる場合がある
・見た目的な変化をもたらせる
マフラーのデザインによってはカッコよくなる場合がある
・集団走行時の存在感がアップ
音量によっては仲間とのツーリング時も自バイクの排気音が聞こえる
デメリット
・マフラー代や取り付け工賃がかかる
・基本的に燃調セッティングとエアクリーナー交換が必須
※下記デメリットはJMCA認定マフラーである場合を除く
・違法となる場合がある (不正改造車として摘発される可能性がある)
・車検の度にノーマルに交換する必要がある (ショップに車検を依頼する場合は、別途マフラー交換費用が発生)
・触媒性能がノーマルより低い為、地球環境にとってネガティブ
・騒音問題に発展する可能性がある
・車などが急接近してきた際の音が聞こえないので危険回避がしにくいことがある
・バイクで出かけた際、近所の人に自分が帰宅・外出したことが十中八九知れてしまう
現行モデルのマフラーを変える必要はあるのか?
あくまで私見だが、現在新車で販売されているハーレーはマフラーを変える必要はないと私は考えている。
理由としてまず挙げられる点は、前述したEURO4対応によって、現行ハーレーの排気音は十分楽しめるレベルまで音量が上がったこと。
そしてもう一つ大きな理由は、ハーレー用として広く販売されている輸入マフラーの多くが、本来日本の公道では法律上装着してはいけないからである。
通販で普通に買えるハーレー用マフラーは法律に適合していない製品が多いのか?
本国アメリカのハーレー乗りから支持されるカスタムパーツメーカー「バンス&ハインズ」をはじめ、クロームワークス等の有名メーカーのマフラーの多くが、日本の排ガス規制・騒音規制に準じていない製品が多い。
ハーレー自身が出がけるレースブランドである「スクリーミンイーグル」がリリースするマフラーに関しても、一部の適合製品を除き、日本の公道では使用不可なものがある。
実際にバンス&ハインズの日本公式サイトを見てみると、マフラーの製品ページ内にきちんと「一般公道使用不可」と明記されている。要はメーカーとしては、日本向けにはレース用として販売しているのだ。
また、見た目が同一である北米仕様のマフラーを流用する場合であっても、北米マフラーは音量が99dBと日本の騒音規制の上限94dBをはるかに超えている為、厳密には不正改造車となり車検には通らない。
因みに、5dBしか変わらないので大した違いはなさそうに感じるが、5dB増えると音量は約1.8倍大きくなることになる。詰まるところ北米マフラーは日本仕様より倍程度大きい音がするというわけだ。
日本の二輪車排気騒音規制は厳しいのか?
国内で昔から基準を満たさないマフラーが普及しているのは、日本の騒音規制値が厳しいからではないのか…という風潮があるようだが、果たしてどうなのか。
まず、日本の大型二輪の排気騒音規制はJASMAのサイトにあるように、近接排気騒音が94dB、加速走行騒音が73dB、定常走行騒音が72dB。
続いて米国やヨーロッパの規制値。近接と定常は上限設定なし、加速騒音のみ80dBと定められている。
数値だけ見るとやはり日本の規制は相当厳しいように感じますね。
しかし、音というのは発生源だけでなく周りの環境により聞こえ方が変わってくるという点を考慮する必要がありそうです。
ここでスピーカーの原理をおさらいしておきましょう。
スピーカーの構造は大きく分けて、ユニットと呼ばれる振動し音が発生する部分と、外箱であるエンクロージャーで構成されている。
音量を決めるのは音が発生しているユニット部分と思いがちだが、実はそれだけではない。
特にスピーカーで大きな音を発生させる際に重要となってくるのが、ユニットで発生した音を反響させ音を増幅する役目を果たしている「エンクロージャー」です。
ライブハウスやクラブに行ったことのある方なら見たことがあるかと思いますが、大きな音の出るスピーカーは、外箱がとても大きく重厚です。
要は、スピーカーというのは発生源だけでなく音を反響させて音を増幅させる部分(スピーカーであればエンクロージャー)の存在が重要なのです。
バイクのマフラーに話を照らし合わせると、マフラーというのはスピーカーで言うユニットで、スピーカーで言うエンクロージャーは道路の周辺環境ということになります。
日本という国は言わずもがな世界でも有数の人口密集地域。特に世界都市の東京は、Wikipediaにも記載の通り、世界第1位の人口密度となる都市である。必然的に建物の数はとてつもなく多く、道幅は狭い。
私は若い頃からアメリカによく旅に出かけているが、アメリカの道路は日本と比較にならないほど広いですね。
フリーウェイ(日本で言う高速道路)で片側5車線なんてのもざらです。また、ニューヨークやロサンゼルス等の大都市の市街地を除けば、建物の密集具合は明らかに日本と比べ低密度ですね。
マフラーから発せられた音というのは、地面や周囲の建物等に反響し、ライダーや通行人の耳に届きます。
世界第1位の人口密集地である東京の場合、マフラー音はすぐに周囲の建物に当たり反響し増幅しますが、米国や欧州等の人口密度が日本より低い土地では、日本と比べ音は反響しにくいわけです。
よく言われる「アメリカに比べて日本のマフラー音規制は厳しい」というのは数値だけを見た意見であって、実際に耳で比較すると大差ない場合もあります。
私自身アメリカを訪れ数えきれないほど街中を走行しているハーレーを見てきましたが、マフラー音を不快に感じたことはほとんどありません。
しかし都内でバンス管等の公道走行不可マフラーをつけて走っているハーレーの音を聞くと、明らかにうるさいと感じます。道幅が狭い為バイクとの距離が近くなってしまうことをはじめ、道路周辺の壁や建物に音が反響することで、所謂地響きが起きているわけです。
要は同じマフラーをつけて走っていても、広大な場所とそうでない場所では聞こえ方が大きく変わるということです。
日本の排気騒音規制値というのは日本の人口・建物密度を考慮した数値です。
米国や欧州と比較すると規制が厳しいように感じますが、音の性質を考えると日本の規制値は一概に厳しすぎるわけではなさそうです。
ハーレーの一部ディーラーやチューニングショップは、何故違法と知りながらマフラーを販売をするのか
ハーレーダビッドソン東久留米や横浜パインバレー等、一部のハーレーディーラーやチューニング屋が運営するサイトやYouTubeを見ると、当たり前のようにレース用マフラーを紹介していることが往々にあります。
それらを見るとまるでこのマフラーを付けて公道を走行していいんだ…と錯覚させるような内容のコンテンツも沢山ありますよね。
パインバレーの公式サイトを見ると、この記事の執筆時点では、バンス&ハインズ等の製品を日本の公道で装着することの違法性について特に明記されていません。同店の通販サイトでは、適法マフラーには「車検対応」と記載されているのみです。
何故このように有名店であっても堂々と公道走行不可のマフラーを販売しているのかというと、答えは単純明快で「警察の取り締まりが甘い」からに他なりません。
取り締まりの甘さに加え、以前の「ハーレーを安く買う方法」の記事でも書いたように、ハーレー販売店は新車を売るだけでは十分な利益を得られない。ですので本当は違法であると知りながらも、シノギの一環として需要の多いマフラー改造や違法車両のチューニングを行っているのです。
個人的に、ハーレーダビッドソン東久留米のような正規ディーラーがYouTube上で違法マフラーを装着したバイクを堂々とチューニングし公道で試走行している映像は、法律遵守の観点から見て野放しにしていいのかと疑問が湧いてくる。
なお兄はハーレーのマフラー交換に否定的?!
結論から言うと、私はバイクのマフラー交換に関しては完全な肯定派。今所有しているバイクはノーマルマフラーですが、若い頃に乗っていたバイクは全てマフラーを変えていました。
ただしそれは法律で定められた基準を遵守しているという最低限のルールは守った上での話です。
私自身ハーレー乗りだからこそ感じる界隈の長年の悩みと言えば、あまりにもうるさい所謂”爆音マフラー”を付けて公道を走る輩が一定数いて、それらがバイク乗りの片身を狭くしているという点です。
ですので、JMCA認定のような合法マフラーであれば法律上なにも問題ないので、ガンガンカスタムすべしと思っています。
ただ現時点、ハーレー用のJMCA認定マフラーは商品数が少なく、ノーマルと比べて音的にもデザイン的にも優れている製品がほとんどないのが現状です。
まとめ。ハーレーのマフラー交換についての私見
今回長々とハーレーのマフラー改造についての私の思いを書きましたが、現行のハーレーはマフラーをいじらず乗っても良さげというのが私見です。
ノーマルマフラーの定価がほとんどの社外品より高額であることを考えると、ノーマルマフラーというのは社外品より高性能な部分があるのです。
それはパワーが出るかどうかではなく、排ガスを抑える性能であったり、エンジンの健康にとっていいといった部分です。
わざわざお金を払って騒音や排ガスといったネガティブ要素を増やすよりも、その地域に合わせた規制の範疇で、紳士的にハーレーを楽しんだ方が間違いなく良さそうです。
はじめましてコメント失礼します
ノーマルマフラーについえ調べていたところこのブログにたどり着きました。
詳しく書かれていてとても勉強になります。
私自身フォーティーエイトに乗っていてバンスに変えようかと思ってましたが、費用になんだかんだで10万近くかかるのと、近所の目があるのとで迷ってました。
やはりアドバイス通りノーマルのまま楽しむことにします
ありがとうございました!これからもブログ楽しみに見させていただきます。
岐阜の48さん
コメントありがとうございます
返信がだいぶ遅くなってしまいすみません!
マフラーに関して、当ブログを参考にして頂けたようで何よりです。
他にもハーレーの記事を沢山書いていますので、ぜひ読んでみてください!
こんにちは、
2022年式ブレイクアウト乗りです。
的確なご指摘で勉強になり共感します。
私もノーマルで乗ってますがお分かりだと思いますが信号待ちの度にエンジンが高温になり常にオーバーヒートの心配を抱えています。
最後のまとめのところでノーマルマフラーについて「エンジニアの健康にとっていい」とありますが燃調しなくても健康なのでしょうか?
ノーマルマフラーでもインジェクションチューニングをした方がエンジンが健康な状態になり寿命も伸びると聞きますが何だかノーマルのままだとエンジンが壊れてしまうんじゃないかと錯覚に陥ってしまいます。
ノーマルで乗り続けておられる方も沢山おられると思うし疑問に思うところです。
ご教授いただけると幸いです。
長文で失礼します。
ブレイクアウト乗りのnoriさん
コメントありがとうございます。返信遅くなり申し訳ありません。
エンジンの健康にとってチューニングは必要なのか?確かに気になりますよね。
私は今までに複数のハーレーを所有してきました。
完全ノーマルで乗っていたものもありますし、マフラーなどをカスタムしチューニングしていたこともあります。
今までの経験から言いますと、ハーレーにとってエンジンの寿命を考えると、やはりノーマルが最も良いのではないかと思っています。
「ノーマルでもチューニングしたほうがよい」というのは最近よくYoutubeなどで耳にしますが、これはパワーや鼓動感がよくなることであって、エンジン寿命を延ばすことではありません。
もし「チューニングをするとエンジン寿命が上がる」と謳っているのを見かけたら、これは不安商法の典型例ですのでお気を付けください。
そもそもメーカーは現在の排ガス規制によりガスを薄く設定しなくてはならないことを考慮してエンジンの耐久設計をしていますので、ガスが薄くてエンジン熱が高くなっても問題がない仕様というわけです。
では逆に、ガスを濃くしエンジンの熱を下げたは良いが、元々のエンジン性能の上限近くまでパワーアップさせると、エンジン各所にかかる負荷が増えることについて考慮されているのかどうかを考えなくてはなりません。
答えはもうお分かりかと思いますが、チューニングする側は、クランクケースやシリンダー等の強度のことなど考慮していません。
唯一そういうデリケートなことを考えておられるのは、世田谷のサンダンスさんくらいかと思います。
私自身の経験から一例をあげますと、当時スポーツスターを2台所有しており、1台はノーマル、もう1台はチューニング済みのものを所有していました。
ノーマルの方は5万キロ以上走行しても全くエンジントラブルはなかったのですが、チューニングした方は新車で買って5千キロしないうちにクランクケースやシリンダー下部からオイル滲みが発生してきました。
ハーレーの場合それぞれの車両で個体差が激しいので、その一台がハズレだった可能性はあるでしょうが、それ以外にも似たような経験はありました。
ですので私は、今までの経験から「ノーマルの方がエンジンの健康がよい」と思っております。
これはあくまで私見ですので、色々な方から話を聞いてみるのが良いかと思います。