全ての乗り物にとって必需となる装置であるブレーキ。そんなブレーキを構成する部品の中で、定期的な清掃とグリスアップを必要とするのが「ブレーキキャリパー」だ。
今回は、私が乗るスポーツスターのXL883Nで年に2回ほど行っているキャリパーの整備方法をシェアする。
溜まったブレーキダストを洗い流し、スライドピン等の各所をグリスアップすれば、ブレーキの利きが格段に良くなるだけでなく、燃費低下の大きな原因とされる「ブレーキの引きずり」も未然に防げるはずだ。
スポーツスターのブレーキキャリパーについて
スポーツスターのキャリパーはこれまでに何度も仕様変更されている。
1999年までのスポーツスターには、小型の1ポッドタイプが採用されており、ブレーキの利きはマイルドであった。
2000年から2003年の間は、重厚な作りの4ポット式が採用された。
利きはかなり良くなったが、リアキャリパーを外す際にホイールを外さないといけないのが難点であった。
2004年よりスポーツスターのキャリパーには、日本メーカーのNISSIN製が採用となった。そのことにより、キャリパー周りを整備する為にはミリ工具が必要となった。
ポッド数は、2013年までがフロントが2ポッド、リアが1ポッド。
2014年以降は、フロントはそのまま2ポッドだがピストン系が大型化され、リアは対面式の2ポッドに変更となった。
因みに私が乗る前期型のXL883Nは、フロント2・リア1のNISSIN製キャリパーである。今回はそれを元にキャリパー清掃法を説明していく。
整備の前にまずは知る!ディスクブレーキの仕組みについて
ブレーキレバーを握りフルードに伝わった圧力は、キャリパーを通してブレーキパッドへと伝わる。
そのパッドが、ホイールとニコイチになったブレーキローターを挟み込むことでタイヤの回転を制御するというのがディスクブレーキの仕組みである。
ハーレーによく使われるブレーキパッドについて
ブレーキパッドは、金属のベースの上に摩擦材が張り付いた構造となっている。
ハーレーの場合、摩擦材の種類は大きく分けて以下の3種類ある
・オーガニック: 最もオーソドックスな利き。ローターへの負担が少ない
・ケブラー: 利きはオーガニックより良い。鳴りも少ない
・メタル: 硬くてしっかりとした利き。鳴きが出る場合があるので、今はセミメタルという混合タイプが人気
ハーレーに使用されるパッドの摩擦材には、カーボンやケブラーを素材に用いた製品が大方だが、利きを重視したい場合は、素材に金属を混合した社外のメタルパッドがいいだろう。
ブレーキキャリパー清掃の必要性
キャリパーは制動の肝となる部分。こと車重が300㎏近くあるスポーツスターを止める為にはかなりの摩擦エネルギーが発生する。
そのことによりパッドとローターが少しずつ削れ、ブレーキダストと呼ばれる粉塵が発生。そのダストはキャリパー周辺にこびりつき、キャリパーのピストンやスライドピンの動きを悪くする。
動きの鈍ったキャリパーは、ブレーキを握り終えた時のパッドの「戻り」が悪くなるので、所謂「ブレーキの引きずり」の原因となってしまう。
このブレーキの引きずりが起こると、走行中常にパッドがローターと触れている状態となるので、速度低下や燃費低下の原因となってしまう。
車体を押している時にブレーキから「シャリシャリ」と音が鳴っていたらキャリパーの清掃&グリスアップを考えたほうがよいだろう。
必要工具
今回の作業で必要となる工具は以下だ
・マイナスドライバー
・5ミリのヘキサゴンレンチ
・ソケット2種 (12角10ミリ、14ミリ)
・12ミリのスパナ
〇お手入れ用品
・パーツクリーナー
・ウエスまたはボロ布など
・グリス(ワコーズのラバーグリースがおすすめ)
・ブレーキパッドグリス
それでは、XL883Nのブレーキキャリパーの清掃方法を解説!
作業の前提として、今回はキャリパーのオーバーホールではなく、それほど手間のかからない清掃のみの解説である。尚、あわせてパッド交換もする場合は、作業内容と必要工具が少し異なるのでご注意頂きたい。
また、同じスポーツスターでも年式によってキャリパー構造が大きく異なる。私のXL883NのようにキャリパーがNISSIN製の場合は工具はインチではなくミリが必要となるので注意が必要だ。
①ブレーキパッドを外す
2004年移行のNISSIN製キャリパーは、前後ともパッドピン1本を抜くだけでパッドが外せる構造だ。
パッドピンは「カバーねじ」に覆われているので、まずはマイナスドライバーを使ってカバーを外す。
カバーの先には、六角穴の付いたピンがあるので、5ミリのヘキサゴンレンチでこれを回す。
回しきったらピンを引き抜くわけだが、パッドはこのピンによって固定されているだけなので、引き抜く際にパッドが落ちないように手で押さえておく。
尚、パッドを抜いた後は決してブレーキを握ってはならない。ピストンが抜けてフルードが漏れてしまうからだ。
②ブレーキパッドを清掃
外したブレーキパッド全体にパーツクリーナを吹きかけて洗浄してくのだが、ハーレー純正のパッドは、ピストン側にステンレスのプレートが付いているので、それもバラしてから洗浄する。
間に断熱材が入っているので一緒にパーツクリーナで綺麗にしておこう。
③キャリパー本体の取り外し
フロント側
キャリパーを固定しているフロントフォークの2本のボルトを外す。このボルトの頭は溝が沢山ある変わった形状をしているが、ホームセンターなどで広く売られている12角・10ミリのソケットで回せる。因みに私は、非常にお得なトネの12角ソケットセットを使っている
ボルトを抜くとキャリパーがストンと落ちてしまうので、手でキャリパーを支えながらボルトを外すこと。
キャリパーが外れたら、用意した台や段ボールに置く。台はブレーキホースが伸びきらない高さが必要である。決してそのままブレーキホースで吊るしてはいけない。
リア側
ブレーキホースのすぐ下にある14ミリの「ピン一体型ボルト」を外す。
次に、リアサス裏にあるスライドピンを12ミリのスパナを使い外す。
この2本のピンを外すだけでリアキャリパーは自由になるが、ブレーキホースの中頃を留めているクランプを外しておくと後々の作業が楽になるので外しておこう。
④キャリパーの清掃
フロントキャリパーの場合
フロントフォークと接合していた台座部分と、キャリパー本体を分離する。お互いを横にスライドさせるとすんなり分解できる。
リアキャリパーの場合
リアの台座はスイングアームに付いたままとなっているので分解の必要はない。
以降は共通
内側に付いている板バネと、スライドピンのダストブーツを外しておく。
次に、濡らした雑巾等でキャリパーの周りを丹念に拭く。基本的にキャリパーに付いている汚れは水で落ちる場合が多いが、必要であればパーツクリーナを使おう。
取り外したネジやバネなどの部品もパーツクリーナで汚れを落としておく。
次にピストンのある内側を清掃するわけだが、今回はパッドを交換しないので、ピストンを押し込まないよう気を付けながら清掃する必要がある。
私の場合は、空のスプレーボトルに水を入れ、ピストン周辺にたっぷり水を吹き付けた後、使い古しの歯ブラシを使って清掃した。勿論最後は乾拭きで水気を取る。
⑤グリスアップ
前後共に、スライド部分となるピンとホールに丁寧にグリスを塗る。パッドを留めているピンも忘れずにグリスアップしておこう。
最後にブレーキの鳴き予防の為に、パッドとピストンが当たる部分にブレーキパッドグリスを塗っておこう。
⑥各部分を復元
取り外した時の逆の順番で、各部を元通りに組み付けていく。
組み終わったらブレーキを数回踏んで利きを確かめる。問題なくブレーキが機能していれば完了だ。
以上。自分でできるスポーツスターの簡単なキャリパー清掃方法を解説しました!
ハーレーのブレーキ性能は年々向上していますが、やはりメンテナンスフリーというわけにはいきません。
定期的にキャリパーを清掃することで、パッドの減り具合やグリス切れもチェックできます。
車重の重いハーレーはブレーキの負担も多いです。自分で整備できればより安全にバイクを楽しめますよ。